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絵とかなんとか色々置いておく場所です。
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「お前さぁ」

「はい、なんでしょう?」

「……なんでもない」

 主殿の屋敷に居候させていただくようになって、半年。
 近頃の主殿はなんだかおかしい。

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主殿3





いつからだか知らない。
 ただ、放って置けなくなった。
 いつでも、目で追うようになっていた。
 理由も分からない。
 だけど、あいつが怪我をすると、ざわりと心が騒ぐ。
 あいつが他の男と話すのを見るのを、嫌だと、そう感じるようになっていた。

「御館様、智将殿がお見えです」

「おう、通してくれ」

「ここに」

 障子越しに、涼やかな声が聞こえる。

「お許しを頂かず、失礼致します」

 いけしゃあしゃあと。頭を垂れる相手は、こちらの気など知らぬと言わんばかりだ。

「かまやせん。今日は何かあったか」

「はい、主上よりいくつかお達しがございました」

 涼やかな声が、主上からの伝達を述べ挙げる。
 軍備についてと侵略への対策、それから御前試合の警護について。
 正宗は要点のみをまとめて話してくれるので、ついつい伝達を任せてしまう。
 なにより、こいつの声は心地いい。いつまでも聞いていたくなる。
 だから、わざとこいつに伝達をさせている。

「……それから、堅苦しい話を好かぬのは分かるが、たまには顔を見せよ。と」

「めんどくせえ」

「そう言わず。主上への拝謁も十将の務めですよ、主殿」

 苦言を言いながら、柔らかく笑う。
 戦であれだけの力を振るうとは信じられないほどに、正宗の体の線は細い。少し力を込めたらすぐに壊れてしまいそうだし、女装させたらそこらの女よりもよっぽど美人だと想像できるほどの優男だ。同性ながら、毎度この笑顔にどきりとしてしまう。

「何はともあれ以上にございます。では私はこれにて……」

「ん。ご苦労」

 す、と頭を垂れ、音もなく去っていく。
 もう少し、話をしていたいと思うのだが。
 なんだこの気持ちは。まるで恋でもしてるようではないか。

「馬鹿馬鹿しい」

 自分の思考に思わず声を出して突っ込みを入れる。

「御館様?」

 控えていた部下が心配そうな声をあげる。

「いや、なんでもない」

 そう。なんでもない。男同士で恋など、ありえようはずがない。

「まさかとは思いましたが……。御館様はご存じなかったのですか……」

「? なにをだ?」

「……いいえ。知らぬが仏、という言葉もあります」

 部下の遠い目を見つめて。あいつが去った廊下を見やる。
 何故だか知らない。
 あいつが来ると、なんだかいい匂いが残っている気がする。
 花の匂い、とでもいうのだろうか。柔らかく、甘い匂い。

「……散歩行って来る。夕時には戻る」

「御意。いってらっしゃいませ」

 気を紛らわせるには、打ち合いに限る。
 普段より少しゆっくりと歩く。
 潮風とは別な湿り気が空気に混ざっている。もうすぐ梅雨か……と、ぼんやり考えていると、部下が数人、物陰から誰かを見ているのが見えた。

「おいこら。修練サボって何してんだ」

「げ、お、御館様っ! 大声出さんでください!」

 その場にいる全員に、明らかな動揺が走る。部下達が見ていた先を見やれば、あいつにそっくりの娘が、女中と思われる年配の女と団子を買い求めている。

「なんだ、娘が団子買うくらい大したことじゃあるめえに。何でそんなにこそこそしてんだ」

 一応部下達の意思を尊重して、俺も物陰に隠れるようにして声を潜めてやる。

「何言ってんすか。あの女中、正宗様んとこの多恵ですぜ」

 潜まった声に告げられる名前には聞き覚えがある。一度、正宗と歩いていた女中だ。
 確か子供の頃から仕えている女中で、乳母兼教育係のような存在だといっていたか。

「多恵が娘と一緒だからなんなんだよ。若い女中と一緒なだけだろ」

「かーっ、この人は……! あれは……」

 言いかけた部下の口を、他の手がふさぐ。
 あれは、なんだろう?
 改めて二人を見る。どうやら用が終わったようで、二人揃って歩き出す。
 娘の方は、見れば見るほどに正宗にそっくりだ。あいつも髪をきちんと梳いて、女の装いをしたならば、あんな感じになるだろう。

「お前ら。今のは見なかったことにしてやるから、まっすぐ屋敷にもどれよ」

「へ、へい……」

 部下達に言い残して、二人を尾行する。
 なんとなく興味が沸いた。瓜二つの女を見たといったら、あいつはどんな顔をするか、見てみたかった。
 物陰に隠れながら、二人について歩く。二人が歩いていく方向には、確か正宗の実家があったはずだ。とすると、娘の方は正宗の姉か妹だろうか。あいつからは知恵方である兄上殿の話しか聞かないが。……もしかして、俺 よっぽど女好きに見られているのか?
 どんよりとした気持ちを抱えながら、二人が入っていった家を確かめる。ここには一度しか来たことはないが間違いない、正宗の実家だ。
 門の外で、家人との話を盗み聞いてみる。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

「ただいま。父上は?」

「先ほどお戻りに。時宗様のお部屋におられます」

「そう。ありがとう」

 涼やかな声が耳に心地よく響く。正宗と同じ声だ。
 双子、なのだろうか? だとしたら姿が似ているのにも得心が行く。
 なんだか目的の大部分を果たしてしまったような気がするが、ここまで来たのだからもう少し探ってみてもいいだろう。
 そっと壁伝いに中の様子を探る。以前は外観を見ただけだったが、こう外壁を伝ってみるとやはりかなりの規模を誇る屋敷だと分かる。もっとも、正宗の父上は猛将の二つ名で知られる天津平定に貢献した大武将だ。既に隠居されてはいるが、その功労により家禄は主上に次ぐ位階に記されている。それを考えれば、この規模も大したことないのかもしれない。
 わかっちゃいたが、やはり正宗は生粋の上流者なのだ。
 ぼんやりと考えながら壁を伝っていると、一番奥まった壁の向こうから声が聞こえた。

「おかえり雅。今日は早かったな?」

「はい、兄上が体調を崩されたと聞きましたので」

「心配をかけてしまったね。でも大丈夫なのかい?」

「大丈夫ですよ、主殿はちゃんと分かってくれます」

 威厳のある少ししゃがれた声―多分これが猛将の声だろう―と、雅と呼ばれた娘の声、それから二人より幾分か細い男の声がする。多分最後の声は知恵方 時宗殿の声だ。
 ……って待てよ。今、娘の声が『主殿』と言わなかったか?

「さて、儂はちょいと出かけるかの」

「また主上と将棋ですか?」

「年寄りの楽しみじゃ。時宗の具合も報告せねばなるまい。では行って参るぞ」

「はい。いってらっしゃいませ」

 気配が一つ去る。猛将が主上の将棋相手など聞いたことはないが、ありそうな話だ。

「さて、雅。何か話したいことがあるのではないかい?」

 おっとりとした静かな声がする。

「話したいことなど……兄上はまずお体を治すことです。ゆっくり休んでくださいませ」

「大丈夫さ、少し発作が出ただけだからね。もう落ち着いているよ」

 苦笑しているらしい密やかな笑い声は、正宗が苦笑するときの笑い方に似ている。

「主殿は相変わらずかい? ……その様子では、あまり変化はないようだね?」

「あ、兄上っ」

「もうそろそろいいんじゃないか、と思うのだよ。雅には、幸せになってもらいたいからね」

 知恵方が紡ぐ言葉の合間に、娘の慌てた声音が混じる。

「もちろん、お前に正宗を名乗らせてしまっていることにも責任を感じているし、ね。
 本来正宗は、私が名乗らなければならなかった名なのだから」

 知恵方の口調は変わらない。
 しかし、何を言っているのだろう。理解しようとしても頭が動かない。

「正宗を名乗ると決めたのは、私です。兄上には責などございませぬ」

 娘の涼やかな声が、冷たく変わる。

「私は十将が一人。智将正宗でございます」

 いつかのような、熱を帯びた冷たい声が、耳の奥で聞こえる。

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「雅や、こちらを向いてはくれぬかのぅ?」

 気持ち悪い猫なで声。
 一瞬の隙を突かれ、呪詛で体を縛られて。そして今、獄越しに狸家老がいる。

「強い女子も良いものだがのう……強情を張っていても誰も助けに来ぬぞ」

 相手を見ずとも分かる。きっと、あの下卑た薄ら笑いを浮かべているのだろう。
 父上も、主殿も、助けになど来ない。
 捕らえられたなら、自ら命を絶つ。これが“天津の将”としての美学。
 捕らえられたなら、どんな獄であろうと抜け出でる。これが“主殿の将”としての矜持。
 呪詛を示すらしい黒い鱗の文様は、全身に広がっているようだ。わずかに見える素足にも腕にも、うねる蛇のような文様が拡がっている。

「のう、雅や。ただ一言でいいのだぞ。
 ただ一言、儂の甥と契ると言えばすべて何事もなかったように元に戻るのだぞ」

 古狸には、矜持も美学も分からないらしい。
 憐れを混めて、嘲笑を一つ。

「お主如きが私を縛れると思うてか。まったく、片腹痛いわ」

 狸は応えない。

「策を弄せねば、私一人捕らえられもせぬ。駒を遣わねば、何も出来ぬ。
 変化の術を忘れた狸ほど間抜けなものはないというものよ」

 淡々と紡ぐ。本心なのだから、これ以上どうしようもないのだが。
 ちらりと視線を向けてやると、狸の顔が真っ赤になっている。この程度なのだから、ほんに底が知れているというものだ。

「……お前の主殿は、先ほど捕らえた。配下どもも、もう残ってはおるまいぞ」

 狸の口調が静かになる。

「だからどうだというのだ? 元より救援は来ない。
 主殿ならば、お一人でどこへとでも隠れおおせられるわ」

 弱音など吐くか。元より弱音などないが。
 主殿なら、きっとどこへでも行かれる。私は生涯捕らわれであっても、主殿だけは。

「あやつは謀叛の咎により、決して死ねぬ呪いを受けて地下深くに封ぜられる。
 あと半刻もすれば、術式が始まるぞ」

 心臓が跳ねる。死んでも死ねぬ。地下深くに封ぜられる、だと?

「あやつはもうどこにも隠れられぬよ。永劫、光の届かぬ地下から動けぬのよ」

 薄ら笑いを浮かべる目の焦点が合っていない。
 こいつ、もう狂っている。
 しかし。

「……ふふ、そうか。それならばいいんだ」

「それならばいい、だと?」

「お前は私をここから出す気などないのだろう? 地上の囚人、地下の囚人。
 捕らわれている場所が違うだけだ。私の想いは止められぬ。主殿の思いも止められぬ」

 そうだ。この体は側にいれなくとも、想いは、ずっと一緒にいられるのだ。
 まして獄は地下にある。主殿が封じられる処がどれほど深いか知らないが、その気になれば会うこともできようというものだ。

「お前には私たちを縛れはせぬ」

 今度こそ。狸の顔が耳の先まで真っ赤になる。

「どうした? まるで茹だった狸のようだぞ」

「黙れ黙れ!!」

 激昂した狸が吼える。

「それならばお前は刀に封じてくれる!
 未来永劫、あやつには触れさせぬ!!」

「やってみるがいい。私は主殿にしか傅かぬよ。
 たとえどんな姿に変えられようとな!」

 遠くで、鐘の音が響いていた。

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詩柳耶琴
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非公開
自己紹介:
ラグナロクオンラインのアマツ萌え&自キャラによる人形遊びな実験的短編置き場

といいつつ、いろいろ詰め込んであります。

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