忍者ブログ
絵とかなんとか色々置いておく場所です。
[ 5 ]  [ 6 ]  [ 7 ]  [ 8 ]  [ 9 ]  [ 10
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「雅」

「あ、ああ、ぼんやりしていた……どこまで読んだだろう」

「今日はここまでにしよう。どうも水面が揺れているようだ」

 膝の上の教本を静かに閉じながら、柔らかな笑顔を向けてくれる。

「すまない、兄上」

 本を閉じ、布団の中で上半身のみを起こした兄上に頭を垂れる。
 兄上は、幼少から病弱で布団から出られない。こうして上体は起こせても、外を出歩くことは生涯叶わないだろうと医師に告げられたのは、兄上が5つを数えた時だったという。
 男は武芸に励むもの。しかし兄上は生涯それが叶わない。この診断を受けて悲嘆にくれる両親に、兄上は古今東西問わずあらゆる書物をねだった。武芸に励めず家の長男として相応しくないと言われようと、知識を深めることはできる。知識とは、皆に必要とされるものだから、と。
 武芸ではなく知識で頂点に立ってみせる。5つでその道を選んだのだから、我が兄ながら末恐ろしい子供だと思う。しかし、その結果兄上は“天津の知恵”と呼ばれ、誰も兄上を貶したりはしない。私にとっても、自慢の兄上だ。

「今日は暖かいね。障子をあけておくれ」

「もう春ですから。今年の桜も見事なものになるだろう、と、庭師が言っておりました」

 障子をすべて開けて、兄上に庭が良く見えるようにする。

「うん、とても綺麗だ。あの桜の木の下で書を読めたらさぞ気持ちいいのだろうね」

 目を細めて、まぶしそうに外を見る。
 庭の池にきらきらと光る陽光。兄上には、部屋から眺めるしかない風景。

「そうだ、雅」

「はい?」

「烈将、と呼ばれているのだったかな。主殿とはどんな方だい?」

「とてもお強く、そしてお優しい方です。」

「まだ雅とは呼ばれていないのかい?」

「え?」

「それとも、まだ男だと思い込まれているのかな」

 兄上の顔には、相変わらず柔らかな笑顔。

「何を仰りたいのですか、兄上」

「いいや? 私も一度お目にかかりたい、というだけだよ」

 柔らかな笑顔も、優しい声も、いつもの兄上と変わらない。

「仮にも妹が世話になっているのだから、兄として挨拶の一言もしないとね」

 何故だろう、主殿の下で働くようになって、父上も何かにつけ主殿の話ばかりする。
 そのたびに、なぜか心臓が跳ねる。
 何故だろう。主殿の名を出されると、急に心音がうるさくなる。
 締め付けられる。あの冷たい目を思い出す。
 私は、この思いの名を知らない。

拍手[0回]

「はぁ……」

 漏れるため息が重い。

拍手[0回]

ほねほねくろっく
ブログ内検索
プロフィール
HN:
詩柳耶琴
性別:
非公開
自己紹介:
ラグナロクオンラインのアマツ萌え&自キャラによる人形遊びな実験的短編置き場

といいつつ、いろいろ詰め込んであります。

このページ内における「ラグナロクオンライン」から転載された全てのコンテンツの著作権につきましては、運営元であるガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社と開発元である株式会社Gravity並びに原作者であるリー・ミョンジン氏に帰属します。
© Gravity Co., Ltd. & LeeMyoungJin(studio DTDS) All rights reserved.
© GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.
なお、当ページに掲載しているコンテンツの再利用(再転載・配布など)は、禁止しています。
バーコード
忍者ブログ [PR]


Copyright(c) 覚書帳 All Rights Reserved.
Template By Kentaro