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絵とかなんとか色々置いておく場所です。
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「はぁ……」

 漏れるため息が重い。

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 主殿の供として城に上がるために纏っていた武将としての正装を解き、襦袢姿で目の前のソレを見つめる。
 柔らかな薄茶色の生地の上に描かれた簡素な波文。その上に咲き乱れる、とりどりの花。
 美しい、とは思う。 匠の手による見事な拵えのものであることも分かる。
 しかし、それを私が着るのかと思うと、どうしても重いため息しかでない。

「正宗、入ってもいいかしら?」

「うん。その声は、お多恵だね」

「はい、失礼します」

 背後を見ずとも、声で分かる。多恵は、幼少時から私を教育してくれた女中だ。
 武芸に励む私を諫める両親を説き伏せてくれたのも多恵だった。

「やはり気は進まないのですか? せっかく御館様がご用意して下さったのに」

「……だから余計に着れる気がしない」

「姫。」

 そっと、多恵の手が私の肩に乗せられる。

「姫は、ずっと兄上様のかわりに家の名を背負うと決めてこられた」

 ぽつり。

「お作法ももちろん手習いされたけれど、姫は女性としては生きまいとされてきた」

 優しい声が落ちる。

「御館様は、お嫌いですか?」

「……主殿は、尊敬している。主殿のためならば、私は命も惜しくない」

 家のためではなく。
 もしも死ぬのなら、主殿の元で。
 いつからそう思ったのか、自分でも分からないけれど。

「肌を見られたのは御館様だけに、なのでしょう?」

「当たり前だっ」

「嫌悪は、ありましたか?」

 なかった。
 あの夜、初めて“女”を思い知らされたときも、嫌悪など、なかった。

「御館様の前では、姫でいていいのですよ」

「……主殿は、それで善いと言ってくださるだろうか」

「着物を贈る、という意味を、姫はまだご存じないのですね」

 するり、と手がおちて、代わりに目の前にあった着物が、肩に羽織らされていた。

「ほらほら、あんまり御館様をお待たせしてはなりません。
 多恵が手伝いますので、帯を押さえていてくださいませ」

 なんだか釈然としないまま、多恵のするように任せるしかなかった。



 着物というのは、動きづらい。
 私の部屋は、館の最奥にある主殿の部屋に近い配置にしていただいているが、この距離でもつらい。
 女中達はこんなきつい装束でよくもてきぱきと動けるものだと感心する。
 目的の障子の前。
 裾に注意しながら座るなんて、本当に幼少の頃以来だ。

「主殿、正宗です」

 いつもと同じ、部屋に入る前の言葉。
 なのに、着物を着ているというそれだけなのに。
 どうしても、普段とは違うものに聞こえてしまう。
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ラグナロクオンラインのアマツ萌え&自キャラによる人形遊びな実験的短編置き場

といいつつ、いろいろ詰め込んであります。

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