絵とかなんとか色々置いておく場所です。
夜の闇に舞う桜吹雪。
杯を傾ければ、淡い月明かりが目に染みる。
酒を喉に送ると、なんともいえず苦い味がする。
「……覗き見るくらいなら側に来ぬか。趣味が悪いぞ」
誰もいないはずの背後に声をかけ、側においておいた杯に酒を注ぐ。
「そんなつもりはなかったのですがね? 気配を読めてしまうのは、時に因果ですね」
苦笑交じりに、水面よりも静かな声がする。
視線を向けずとも。わざわざ間を空けて隣に座る相手が誰か分かる。
「笑いにきたか、陰陽方」
「いいえ? 私はただの主上の代で」
儂との間の空間に杯を置く相手の所作は、音一つ立たない。
何度も見慣れた、もはや使う主はいないはずの黒塗りの漆杯。
「最期に、どうしても貴方と酒を、と望まれたので」
そちらにいらっしゃいます。と、儂の隣を見て笑う。
言われたところで、わかりはしないのだが。
どうやら、渋い顔をしていたらしい。笑顔に少しだけ憂いが混ざる。
「そんな顔をしないで差し上げてください。皆さん悲しみますよ」
「ふん……」
静かな声を聞き流して、杯を煽る。
息子が眠り、娘も若干歪んだ形ではあるが好いた男に嫁いでいって。
少し遠くに見える東湖城の主は、この程代替わりをした。
酒を傾けていると、襖の向こうから柔らかく諫めてくれた声はもう二度と聞こえず。
縁側で花吹雪に目を細めていた姿は見えない。
「なぁ、陰陽方よ」
「はい?」
「地下にあっても、この桜は見えるのだろうかな」
ぽつり、呟く。
「そうですね。きっとあちらでは宴もたけなわかと」
穏やかな笑顔が向けられる。
「ご安心めされ。彼らの安寧は、誰にも邪魔させやしませぬ」
闇を舞う桜の花びらが一枚、ふわりと杯に落ちた。まるで、大丈夫だといわんばかりに。
相手の顔を見る。柔和な笑顔のまま、表情は微動だにしない。
****************************************************************************
『彼らの安寧は、誰にも邪魔させやしませぬ』
誓いを立てたあの夜から、何度この夜を迎えただろう。
今年は夜桜を魅せる催しと聞いて、地下の封印を少し緩めた。
そう、“彼”と“もう一人”ならば抜け出られる程度に。
まぁ“彼”が抜け出るときに誰を共にするかなど、決まりきっている。
それ故に二人分と設定したのだけれど。
あの性格上、いきなり暴れだしはしないだろうが、転生のうちにすっかり性格の変わってしまった幼馴染みを心配させぬように僕の姿を写させた式神に後を任せて、見張りのために神社を出たのは数刻前。
離れているせいでちゃんとは聞き取れないが、二人で幸せそうにしている。
どうやら、取り越し苦労で済んだようだ。
もしも、かつて。
“彼”の腰帯に収まっている“姫”が、あの姿になる前に、この光景が実現していたならば。
遥か遥か昔になってしまったあの時、もっと違う道に進めていたなら。
知恵方も、猛将も。本来は、皆で、何度でも、この桜の下 宴を行えるはずだったのに。
思いを馳せるなど、らしくない、か。
苦笑をして、かつての面影を色濃く継いだ忍びのほうへ足を向ける。
輪廻の因果か、どうやら“彼ら”を見つけてしまったらしい。
流石、クウガ殿。貴方も、覚えているのでしょうかね。
斜にかけた仮面で顔を隠して、桜の樹に近づく。
樹の向こうの人物は、“彼ら”が存在している理由に困惑しているらしい。
「アレは、今日のところは悪さをしないでしょう。」
「何故、そんなことが分かる?」
あからさまに動揺しないところは流石。
「まぁそれは、アレがただのデートだからで。
…それに、過去に烈将と呼ばれた男を、相手にするのは大変でしょう?」
烈将、と聴いた瞬間、相手の表情になんともいえない表情が走り抜ける。
この名称は、もう忘れられて久しいもので。現在は正しく知る人物など希少、いや、クウガを継ぐもの以外は存在しないことになっている筈だから、当然といえば当然か。
「貴様やはり只者ではないか…言え。何者だ」
いつでも刀を抜けるように警戒、そして言葉を突き付ける。
その声は、正にかつてのそれ。
「僕は…まぁ、昔は陰陽方と呼ばれてましたけどね、今はただの神社の墓守です」
懐かしさにほろりと笑顔がこぼれた、かもしれない。少なくとも、仮面のおかげで相手には見られていないと思う。
しかし僕の肩書きを聞いて、更に驚いたようだ。
かつては、こんなに表情の変わる方ではなかったのだけれど。
「それで…アレは本当に、今日は何もしないんだな?」
こちらの思いにはまったく気付く素振りをせず、その場にどっかと腰を据えて酒を呷りながら言う。
「ええ、本当に、ただ、現世の様子を見るついでに、デートに来ただけでしょうね」
とりあえず信用はしてもらえたようだと見受け、隣に腰を降ろして杯を相手に差し出す。
「貴様、まだ子供だろうが。酒はやめとけ」
「いえ、まぁ、去年元服はすませましたから、もう頂けますよ」
なんだか釈然としていないようだが、渋々杯に酒を注いでくれる。
こういう堅物なところは、変わりませんね。クウガ殿。
夜桜のせいだろうか。今日はよく懐かしさを感じる日だ。
「お酒のお礼に、少しだけ、昔話をさせていただきますよ」
面を外して、ちびり、と酒を舐める。
酒は清めにしか使ってこなかったので、飲むのはこれが初めてだ。
怪訝そうな顔の相手に、にっこりと笑ってみせる。
「あなたの聞きたいことは、お話できるはずですよ、クウガさん」
こんな風に、相手を挑発するような口調も、今まで我が身の事はないと思っていた。
とりあえず今日は美しい夜桜のせいにしておこう。
酒を煽る相手を見つつ、さてどこから話そうか。と、記憶を引き上げる。
杯を傾ければ、淡い月明かりが目に染みる。
酒を喉に送ると、なんともいえず苦い味がする。
「……覗き見るくらいなら側に来ぬか。趣味が悪いぞ」
誰もいないはずの背後に声をかけ、側においておいた杯に酒を注ぐ。
「そんなつもりはなかったのですがね? 気配を読めてしまうのは、時に因果ですね」
苦笑交じりに、水面よりも静かな声がする。
視線を向けずとも。わざわざ間を空けて隣に座る相手が誰か分かる。
「笑いにきたか、陰陽方」
「いいえ? 私はただの主上の代で」
儂との間の空間に杯を置く相手の所作は、音一つ立たない。
何度も見慣れた、もはや使う主はいないはずの黒塗りの漆杯。
「最期に、どうしても貴方と酒を、と望まれたので」
そちらにいらっしゃいます。と、儂の隣を見て笑う。
言われたところで、わかりはしないのだが。
どうやら、渋い顔をしていたらしい。笑顔に少しだけ憂いが混ざる。
「そんな顔をしないで差し上げてください。皆さん悲しみますよ」
「ふん……」
静かな声を聞き流して、杯を煽る。
息子が眠り、娘も若干歪んだ形ではあるが好いた男に嫁いでいって。
少し遠くに見える東湖城の主は、この程代替わりをした。
酒を傾けていると、襖の向こうから柔らかく諫めてくれた声はもう二度と聞こえず。
縁側で花吹雪に目を細めていた姿は見えない。
「なぁ、陰陽方よ」
「はい?」
「地下にあっても、この桜は見えるのだろうかな」
ぽつり、呟く。
「そうですね。きっとあちらでは宴もたけなわかと」
穏やかな笑顔が向けられる。
「ご安心めされ。彼らの安寧は、誰にも邪魔させやしませぬ」
闇を舞う桜の花びらが一枚、ふわりと杯に落ちた。まるで、大丈夫だといわんばかりに。
相手の顔を見る。柔和な笑顔のまま、表情は微動だにしない。
****************************************************************************
『彼らの安寧は、誰にも邪魔させやしませぬ』
誓いを立てたあの夜から、何度この夜を迎えただろう。
今年は夜桜を魅せる催しと聞いて、地下の封印を少し緩めた。
そう、“彼”と“もう一人”ならば抜け出られる程度に。
まぁ“彼”が抜け出るときに誰を共にするかなど、決まりきっている。
それ故に二人分と設定したのだけれど。
あの性格上、いきなり暴れだしはしないだろうが、転生のうちにすっかり性格の変わってしまった幼馴染みを心配させぬように僕の姿を写させた式神に後を任せて、見張りのために神社を出たのは数刻前。
離れているせいでちゃんとは聞き取れないが、二人で幸せそうにしている。
どうやら、取り越し苦労で済んだようだ。
もしも、かつて。
“彼”の腰帯に収まっている“姫”が、あの姿になる前に、この光景が実現していたならば。
遥か遥か昔になってしまったあの時、もっと違う道に進めていたなら。
知恵方も、猛将も。本来は、皆で、何度でも、この桜の下 宴を行えるはずだったのに。
思いを馳せるなど、らしくない、か。
苦笑をして、かつての面影を色濃く継いだ忍びのほうへ足を向ける。
輪廻の因果か、どうやら“彼ら”を見つけてしまったらしい。
流石、クウガ殿。貴方も、覚えているのでしょうかね。
斜にかけた仮面で顔を隠して、桜の樹に近づく。
樹の向こうの人物は、“彼ら”が存在している理由に困惑しているらしい。
「アレは、今日のところは悪さをしないでしょう。」
「何故、そんなことが分かる?」
あからさまに動揺しないところは流石。
「まぁそれは、アレがただのデートだからで。
…それに、過去に烈将と呼ばれた男を、相手にするのは大変でしょう?」
烈将、と聴いた瞬間、相手の表情になんともいえない表情が走り抜ける。
この名称は、もう忘れられて久しいもので。現在は正しく知る人物など希少、いや、クウガを継ぐもの以外は存在しないことになっている筈だから、当然といえば当然か。
「貴様やはり只者ではないか…言え。何者だ」
いつでも刀を抜けるように警戒、そして言葉を突き付ける。
その声は、正にかつてのそれ。
「僕は…まぁ、昔は陰陽方と呼ばれてましたけどね、今はただの神社の墓守です」
懐かしさにほろりと笑顔がこぼれた、かもしれない。少なくとも、仮面のおかげで相手には見られていないと思う。
しかし僕の肩書きを聞いて、更に驚いたようだ。
かつては、こんなに表情の変わる方ではなかったのだけれど。
「それで…アレは本当に、今日は何もしないんだな?」
こちらの思いにはまったく気付く素振りをせず、その場にどっかと腰を据えて酒を呷りながら言う。
「ええ、本当に、ただ、現世の様子を見るついでに、デートに来ただけでしょうね」
とりあえず信用はしてもらえたようだと見受け、隣に腰を降ろして杯を相手に差し出す。
「貴様、まだ子供だろうが。酒はやめとけ」
「いえ、まぁ、去年元服はすませましたから、もう頂けますよ」
なんだか釈然としていないようだが、渋々杯に酒を注いでくれる。
こういう堅物なところは、変わりませんね。クウガ殿。
夜桜のせいだろうか。今日はよく懐かしさを感じる日だ。
「お酒のお礼に、少しだけ、昔話をさせていただきますよ」
面を外して、ちびり、と酒を舐める。
酒は清めにしか使ってこなかったので、飲むのはこれが初めてだ。
怪訝そうな顔の相手に、にっこりと笑ってみせる。
「あなたの聞きたいことは、お話できるはずですよ、クウガさん」
こんな風に、相手を挑発するような口調も、今まで我が身の事はないと思っていた。
とりあえず今日は美しい夜桜のせいにしておこう。
酒を煽る相手を見つつ、さてどこから話そうか。と、記憶を引き上げる。
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詩柳耶琴
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自己紹介:
ラグナロクオンラインのアマツ萌え&自キャラによる人形遊びな実験的短編置き場
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