ちりちりと焼け付く記憶

[0回]

倉庫を開いて、装備をあさる。

魔力の反動を受けてくれる青い魔石。

浄化した水を詰めた杯。

風の魔力を軽減してくれるレジストポーション。

それから、魔力を膨らませてくれる杖やアクセサリー。


それらに押しやられるようにして、倉庫の奥の方に転がっている

属性が宿った鋭利な爪達。

赤い魔力を封じた魔石。

ハイスピードポーション。

家の衣装箱には入りきらなかった、疾風の名残。



青い魔石が人を救う。

赤い魔石が人を毒す。

杖が増幅した魔力は、人々に奇跡と加護を起こす。

爪が増幅する力は、人々の命を摘み取る。


久しぶりに手にする赤い魔石に映る“俺”は、ハイプリーストのまま。


『ことやーん、支度出来たー？』

『もちょい待て』

『はいよー』

エンペリウムを介して聞こえる軽い声を、いつものように受け流して。

知らずに発動させそうになっていたホーリーライトを手の中で潰す。


スフィンクスダンジョンを闊歩するアヌビスに対抗するための装備。

青い魔石を少し多いと思うほどにバックパックに詰める。

それから。

かつて名前を刻んだクリスマスリングをそっと指に嵌める。

「キリエエレイソン」

神への祝福を請い、10枚の鱗状防壁を顕現する祝詞。

もちろん発動なんかしない。

かつて聞き慣れたそれよりも低く、我ながらどこか投げやりな声だ。

苦笑を一つして、指輪を倉庫に戻し。

「速度増加」

風をまとって、脳内で煩い声の主たちの元へ歩を向ける。

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