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絵とかなんとか色々置いておく場所です。
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「雅や、こちらを向いてはくれぬかのぅ?」

 気持ち悪い猫なで声。
 一瞬の隙を突かれ、呪詛で体を縛られて。そして今、獄越しに狸家老がいる。

「強い女子も良いものだがのう……強情を張っていても誰も助けに来ぬぞ」

 相手を見ずとも分かる。きっと、あの下卑た薄ら笑いを浮かべているのだろう。
 父上も、主殿も、助けになど来ない。
 捕らえられたなら、自ら命を絶つ。これが“天津の将”としての美学。
 捕らえられたなら、どんな獄であろうと抜け出でる。これが“主殿の将”としての矜持。
 呪詛を示すらしい黒い鱗の文様は、全身に広がっているようだ。わずかに見える素足にも腕にも、うねる蛇のような文様が拡がっている。

「のう、雅や。ただ一言でいいのだぞ。
 ただ一言、儂の甥と契ると言えばすべて何事もなかったように元に戻るのだぞ」

 古狸には、矜持も美学も分からないらしい。
 憐れを混めて、嘲笑を一つ。

「お主如きが私を縛れると思うてか。まったく、片腹痛いわ」

 狸は応えない。

「策を弄せねば、私一人捕らえられもせぬ。駒を遣わねば、何も出来ぬ。
 変化の術を忘れた狸ほど間抜けなものはないというものよ」

 淡々と紡ぐ。本心なのだから、これ以上どうしようもないのだが。
 ちらりと視線を向けてやると、狸の顔が真っ赤になっている。この程度なのだから、ほんに底が知れているというものだ。

「……お前の主殿は、先ほど捕らえた。配下どもも、もう残ってはおるまいぞ」

 狸の口調が静かになる。

「だからどうだというのだ? 元より救援は来ない。
 主殿ならば、お一人でどこへとでも隠れおおせられるわ」

 弱音など吐くか。元より弱音などないが。
 主殿なら、きっとどこへでも行かれる。私は生涯捕らわれであっても、主殿だけは。

「あやつは謀叛の咎により、決して死ねぬ呪いを受けて地下深くに封ぜられる。
 あと半刻もすれば、術式が始まるぞ」

 心臓が跳ねる。死んでも死ねぬ。地下深くに封ぜられる、だと?

「あやつはもうどこにも隠れられぬよ。永劫、光の届かぬ地下から動けぬのよ」

 薄ら笑いを浮かべる目の焦点が合っていない。
 こいつ、もう狂っている。
 しかし。

「……ふふ、そうか。それならばいいんだ」

「それならばいい、だと?」

「お前は私をここから出す気などないのだろう? 地上の囚人、地下の囚人。
 捕らわれている場所が違うだけだ。私の想いは止められぬ。主殿の思いも止められぬ」

 そうだ。この体は側にいれなくとも、想いは、ずっと一緒にいられるのだ。
 まして獄は地下にある。主殿が封じられる処がどれほど深いか知らないが、その気になれば会うこともできようというものだ。

「お前には私たちを縛れはせぬ」

 今度こそ。狸の顔が耳の先まで真っ赤になる。

「どうした? まるで茹だった狸のようだぞ」

「黙れ黙れ!!」

 激昂した狸が吼える。

「それならばお前は刀に封じてくれる!
 未来永劫、あやつには触れさせぬ!!」

「やってみるがいい。私は主殿にしか傅かぬよ。
 たとえどんな姿に変えられようとな!」

 遠くで、鐘の音が響いていた。

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 あの夜から、何年経っただろう。
 宣言どおり刀に封ぜられた私は、戦の褒章として狸に佩かれるところだった。
 しかし父上と密儀方が家老の悪事を暴いたため、家老はあっさり失脚した。
 呪いを行えば、そこには特有の邪香が漂う。それを戦乱でごまかせると思ったかきちんと清めをしなかったあたり、やはりあの狸は間抜けだ。
 主殿の嫌疑は晴らされたが、かけられた呪詛は決して解けるものではなかったため、せめての礼として、と、代々の城主に伝わる責務としてきちんとした祀りを行われることになった。
 私の封印は容易に解けるものではあったが、既に肉体を燃やされてしまっていたので封印を解いても魂を戻す場所がない。そのため刀のまま家に戻ることになった。今はかつて兄上の部屋であった奥間に安置されている。

「雅や、今日は良い天気だ。一緒に外に出よう」

 父上は毎日話しかけて下さる。私を携えるときは、まるで壊れ物を扱うようで。家老に詰め寄ったあの形相を見たせいか、なんだかおかしく感じてしまう。
 季節は春。鮮やかに桜が咲き誇り、暖かな風が吹く。

「今年の桜はいつにまして美しいな」

 いつかの兄上のような言葉が落ちる。
 兄上は、この桜の下で書を読んでみたい、と言っておられた。
 もう叶わぬ願い。刀の身では、柄で暖かな春の陽気を感じながら思いを馳せることしかできないけれど。
 いつかは、父上と兄上と、主殿とともに、花見をしてみたかった。 

「……雅。今も、主殿の側がいいか?」

 遠くに思考を馳せていると、不意に少し寂しそうな声が聞こえた。

「あやつはなぁ、何度も何度も儂のところに来ていたよ。
 何度も何度も。お前を貰い受けたいとな」

 私の知らない主殿が語られる。

「儂と時宗と、あやつと。お前が遠出する時は決まって三人で夜通し語ったものだったよ」

 ぽつり、ぽつり。
「楽しかったなぁ……息子が二人できたようで。
 主上にもお前と夫婦になる許しを頂いてたそうだよ」

 ぽつり、ぽつり。

「儂は、お前を守ってやれなんだ。お前を幸せにしてやれなんだ」

 父上の声が震えている。雨は降っていないのに、地に小さな水滴が落ちている。

「雅や、主殿の側に行きたいか?」

 嗚呼、父上。何を仰っておられますか。
 声にしたいのに、刀の姿では叶わない。




『畏み畏み八百万の神統べるは天上の』

 祀りの祝詞が闇に響く。正直暇でたまらない。
 どうせなら女舞でもしてくれたほうが、よっぽど鎮魂だというのに。

「御館様、仮にも畏敬の証ですぞ。もう少しまじめに聞かれては……」

「うーせえなぁ、聞いてると眠くなるんだよ。霊験じゃなくて退屈すぎて」

 側にやってきた金剛に掛け合う。
 死して修験を積み、天狗になった金剛。
 やれやれ、とため息をつきながら、背負った酒壺から酒を渡してくれる。

「おや、今日は供物があるようですぞ。どうやら刀と見受けますが」

「どーせ祓いのなまくら……」

 言いかけて。ありえない気配に身を起こす。

「……おいおい、冗談だろ」

 良く見れば、巫女達の後ろには、最後に見たときよりも更に老け込んだ猛将の姿。

「あれは……まさか……」

 天狗の驚愕が耳に届いているはずなのに、遠くに聞こえる。

「お、御館様。これを……」

 人形の姿に封ぜられたくの一が、供物と捧げられた刀を抱えてくる。
 布越しでも分かる。清流のような、涼やかな気配。

「悪い、しばらく一人にしてくれるか」

「は、御意」

 天狗が人形を引っ張っていき。部屋に一人きりになった。
 いや、正確には二人きりというべきか。

「雅……なのか?」

 刀に問いかけても、答えなど帰ってこない。
 でも、分かる。

『主殿……』

 俺を呼ぶ、涼やかな声が聞こえた気がした。 

「馬鹿か……地上にいればよかったものを……」

 胸に抱いてみる。
 ああ、この温もりだ。

「もう、誰にも渡さない」

 そっと、鞘に手を滑らせて。柄に口付ける。

「雅、俺の、妻になってくれるな……?」

 結局、面と向かっては言えなかった言葉。

『私は、主殿の妾でございますよ』

 閉じた瞼に、柔らかい笑顔が見えた気がした。
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ラグナロクオンラインのアマツ萌え&自キャラによる人形遊びな実験的短編置き場

といいつつ、いろいろ詰め込んであります。

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