絵とかなんとか色々置いておく場所です。
開け放しの障子戸から、夜風が吹きぬける。今の時期――ちょうど秋から冬に近づくこの頃の風は、とても心地いい。強く吹くこともなく、たださらりと冷たさをかすかに纏った風が通っていく。
風が頬を撫でるに任せ、刀に粉を叩く。口にしている半紙が、口内の水分を取っていくのを感じながら、剣と相対する。
俺はこの時間は好きだ。働いているのか分からない坊主達のいう、瞑想の儀式にでもあたるだろうか。
傍らには酒瓶を用意はしてある。手入れのために用意したものではあるのだが、用途はもう一つ。
「久宗! おい、いるんだろう!」
荒々しい足音が近づいてくる。
「おう、吉継。どうかしたか」
「どうかしたかではない!!」
猛る相手を宥めて座らせ、おどおどと後ろからついてきた使用人に目配せで人払いを命じる。
まだ若い使用人は少々戸惑いを残したまま、控えめに一礼をくれて、障子を音なく閉めて去っていく。少々可哀相だったかもしれないが、他の使用人に聞けばこれが日常茶飯事であることは嫌というほど語り聞かせることだろう。
「まぁ、まずは一献呑め。息を整えず話し出すと、また空気が足りなくなるぞ」
極力柔和な笑顔を作って、傍らの戸棚に隠した猪口に一献して渡してやる。
「全く、貴様という男は……っ
一献する間にその気味の悪い作り笑いを消しておけよ」
渋々という様子を全く隠さぬままに、猪口を一息に呷る相手に苦笑。
「まぁ焦らずとも。ここにあっては俺は逃げも隠れもせんよ」
「よく言う。あの立ち回りはどういうつもりだ」
勢いよく猪口を握ったままの腕が垂直に振り下ろされる。
相手が言っているのは、時間を遡って昼の事。
征夷将正を決めるための、御前仕合。
「あんな甘い踏み込みで、貴様を打てるものか。何故加減をした」
相手本来の静かな口調ながら、明らかに言葉が怒気を孕んでいる。
「加減など。
“颯剣”の異名をとるお主相手に、そんな芸当が出来ると思うか?」
「“猛将”ならできる」
はっきりとした断定。
「もっと言えば、あの踏み込みも誘い出されたものだ。違うか」
まっすぐに。相手の目がこちらを射抜かんとしている。
肩を竦めて、戸棚から猪口をもう一つ。新たに出した物と、相手の手から離されたそれに、酒を一献ずつ。
「長い付き合いだ。俺の性分くらい知っているだろう」
相手は答えない。
「俺は、人の上に立つ器じゃあない」
にっと笑って見せる。相手の顔は、呆れに変わっている。
「本当に、貴様という男は」
「相手が吉継で良かったよ。他の者では、加減の仕様がないからな」
「呆れた奴だな、全く」
相手が、猪口を呷る。こちらも合わせるように猪口を呷る。
「俺はな、吉継。太刀にはなれても、盾にはなれんのだよ」
「なんだ、急に」
「ただの事実だ、聞き流せ」
「事実を聞き流せと言うか」
酒瓶を傾ける相手が苦笑する。そして、相手の持つ酒瓶の口がこちらを向いている。
「聞き流せと言うなら、猪口を出せ」
酒瓶の先の貌は、戦場で見るような不敵な笑顔。
酒で満たされた猪口が、行き交う。
「なあ、久宗」
「なんだ」
「俺は、間違っていなかったよな」
山城の頂上、城主の間の欄干に背を預けて月を見上げる。
答えの代わりに、空になった相手の杯に一献。
「俺達が選ぶ道は、いつだって最善であるはずを選んできているんだ」
酒で満ちた自分の杯を一呷り。
「正しいかどうかは後の者が決めること、か」
視界の端で、黒漆の杯が呷られるのが見えた。
あのときと同じ、秋から冬に変わる冷たさを纏った風がさらりと流れていく。
「あの向こうに、皆もいるかな」
「きっと、あちらはあちらで酒盛りしているよ」
杯が二つ、虚空に掲げられる。
ひらり。枯れを知らぬ桜の花びらが舞っている。
風が頬を撫でるに任せ、刀に粉を叩く。口にしている半紙が、口内の水分を取っていくのを感じながら、剣と相対する。
俺はこの時間は好きだ。働いているのか分からない坊主達のいう、瞑想の儀式にでもあたるだろうか。
傍らには酒瓶を用意はしてある。手入れのために用意したものではあるのだが、用途はもう一つ。
「久宗! おい、いるんだろう!」
荒々しい足音が近づいてくる。
「おう、吉継。どうかしたか」
「どうかしたかではない!!」
猛る相手を宥めて座らせ、おどおどと後ろからついてきた使用人に目配せで人払いを命じる。
まだ若い使用人は少々戸惑いを残したまま、控えめに一礼をくれて、障子を音なく閉めて去っていく。少々可哀相だったかもしれないが、他の使用人に聞けばこれが日常茶飯事であることは嫌というほど語り聞かせることだろう。
「まぁ、まずは一献呑め。息を整えず話し出すと、また空気が足りなくなるぞ」
極力柔和な笑顔を作って、傍らの戸棚に隠した猪口に一献して渡してやる。
「全く、貴様という男は……っ
一献する間にその気味の悪い作り笑いを消しておけよ」
渋々という様子を全く隠さぬままに、猪口を一息に呷る相手に苦笑。
「まぁ焦らずとも。ここにあっては俺は逃げも隠れもせんよ」
「よく言う。あの立ち回りはどういうつもりだ」
勢いよく猪口を握ったままの腕が垂直に振り下ろされる。
相手が言っているのは、時間を遡って昼の事。
征夷将正を決めるための、御前仕合。
「あんな甘い踏み込みで、貴様を打てるものか。何故加減をした」
相手本来の静かな口調ながら、明らかに言葉が怒気を孕んでいる。
「加減など。
“颯剣”の異名をとるお主相手に、そんな芸当が出来ると思うか?」
「“猛将”ならできる」
はっきりとした断定。
「もっと言えば、あの踏み込みも誘い出されたものだ。違うか」
まっすぐに。相手の目がこちらを射抜かんとしている。
肩を竦めて、戸棚から猪口をもう一つ。新たに出した物と、相手の手から離されたそれに、酒を一献ずつ。
「長い付き合いだ。俺の性分くらい知っているだろう」
相手は答えない。
「俺は、人の上に立つ器じゃあない」
にっと笑って見せる。相手の顔は、呆れに変わっている。
「本当に、貴様という男は」
「相手が吉継で良かったよ。他の者では、加減の仕様がないからな」
「呆れた奴だな、全く」
相手が、猪口を呷る。こちらも合わせるように猪口を呷る。
「俺はな、吉継。太刀にはなれても、盾にはなれんのだよ」
「なんだ、急に」
「ただの事実だ、聞き流せ」
「事実を聞き流せと言うか」
酒瓶を傾ける相手が苦笑する。そして、相手の持つ酒瓶の口がこちらを向いている。
「聞き流せと言うなら、猪口を出せ」
酒瓶の先の貌は、戦場で見るような不敵な笑顔。
酒で満たされた猪口が、行き交う。
「なあ、久宗」
「なんだ」
「俺は、間違っていなかったよな」
山城の頂上、城主の間の欄干に背を預けて月を見上げる。
答えの代わりに、空になった相手の杯に一献。
「俺達が選ぶ道は、いつだって最善であるはずを選んできているんだ」
酒で満ちた自分の杯を一呷り。
「正しいかどうかは後の者が決めること、か」
視界の端で、黒漆の杯が呷られるのが見えた。
あのときと同じ、秋から冬に変わる冷たさを纏った風がさらりと流れていく。
「あの向こうに、皆もいるかな」
「きっと、あちらはあちらで酒盛りしているよ」
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ひらり。枯れを知らぬ桜の花びらが舞っている。
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詩柳耶琴
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非公開
自己紹介:
ラグナロクオンラインのアマツ萌え&自キャラによる人形遊びな実験的短編置き場
といいつつ、いろいろ詰め込んであります。
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