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絵とかなんとか色々置いておく場所です。
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今はもう、昔の話。

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ぱらり。ぱらり。
頁を手繰る音だけが、牢の石壁に静かに響く。
細く白い指先が手繰っていた音よりも、少々荒い音。
あの音を出すには、やはりまだ何かが足りないらしい。

細く開いた窓から僅かに見える白砂には、砂よりも白く輝く雪。
しんしんと降る雪は、今宵の明かりにはなってくれないので、
行灯に炎を灯すと、傷がつかぬよう壁にかけた護袋が目に入る。

「知恵方……」

擦れた白い袋は、最後にあの方を見たときの、
哀れなほどにささくれた細い指の面影のようだ。










あの日も、こんな雪の日だった。









「行信殿」

 ぱさり。普段よりも、幾分力の無い教本を閉じる音。

「私から教えられる事は全てお教えしました。
 本日を以って、貴方の修業式としましょう。」 

「そ、そんな。私にはまだまだ……!!」

「ふふ、叔父上に言われて通われるのも随分飽きてきた頃でしょう?
 これからは自らの見聞を以って、学をお修めなさい」

 どこまでも柔らかな声。仏とまごうほどの、穏やかな笑顔。
 しかし、その言葉に聞いたままの穏やかさなど無い。

「少しこちらへ」

 初めて、傍に呼ばれる。
 礼を失さぬよう、主上に謁見するときのような緊張。
 真っ白な布団のすぐ横に座ると、布団の中から、更に白い腕が伸びている。

「証書、には粗末過ぎるかもしれませんが」

 ささくれた白い手の中には、雪を押し固めたような白い護袋。

「忘れ形見、になってしまうかもしれません」

「知恵方……」

「出来れば、可能な限り貴方の傍に置いてください」

 力なく笑う、仏の顔。




 袋の正体が、妖避けの呪力を籠めた浄札であったことを知ったのは、

 全てが終わった後。





 私は、知らぬうちにとはいえ、妖をもって知恵方を隠してしまった。

 その咎により、終身この座敷牢で暮らすことになっている。


「私は、貴方を誇りに想っています。昔も、今も」

「貴方に師事出来た事は、間違いでなかったと思っています」

 ただただ、静寂と、冷え冷えとした空気だけが声を聞いてくれる。

「知恵方……」

 呼んでも、手を伸ばしても、届かないところに逝ってしまった、師匠。

 ぱさり、と、教本が落ちる音がした。
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ラグナロクオンラインのアマツ萌え&自キャラによる人形遊びな実験的短編置き場

といいつつ、いろいろ詰め込んであります。

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