絵とかなんとか色々置いておく場所です。
「おや、烈将殿。無事のご帰還、実にめでたく」
城主の間を辞する廊下。行き合った家老が、わざとらしく慇懃に言う。
離島に棲む鬼達の討伐を下されたのは一月前。主上の横でにやにやと笑っていたこいつの顔と、今の態度から察するに、今回の討伐は成功するとは思っていなかったのだろう。
「主上のご威光のおかげにて。家老も誉れはかねがね」
こういう回りくどい言い方は好かないが、一応話は合わせなくてはなるまい。
「それほどでは。そういえば、本日は知将殿の姿が見えぬようですが」
「正宗は知恵方の具合が悪いとのことで家に。奏上は私一人で十分ゆえ」
これは本当だ。知恵方はお体が弱く、よく寝込まれる。討伐の命が下る前日に体調を崩されていたので本来正宗は連れて行かないつもりだったのが、『私は将でございます』という正宗の言葉に負けてしまった。それだけに、天津に戻ったその足で真っ直ぐ家に向かわせたのだ。
それからもう一つ、今日は正宗抜きで主上に拝謁したかった。正宗、いや、雅を妻とする許しを頂くために。
「なるほどなるほど。知恵方の病は天津の大事ですからな」
家老の顔には、いつぞやの狸の薄ら笑いが浮かんでいる。
「左様。申し訳ないがまだ荷解きが終わっておりませぬ故、これにて」
さっさと話を切り上げ、礼を一つして足早に抜けようとする。
「心しておけ。お主如きに雅は渡さぬ」
家老の横を通り過ぎる一瞬。普段は聞くことのない冷たいものが耳に届く。
雅の家は元々勇猛で知られる武家であり、長男である知恵方の威光、雅本人の将としての評価もあって、数多ある武家の中でも高い権力を持つ。権力を狙う者にとっては格好の獲物だ。
あの狸家老の考えていることは城の皆が知っている。雅と甥を娶わせ、自分が天津を支配する。なまじ家老という立場であるゆえ、誰も表立って悪くは言えない。けれど、快く思っている者は誰一人いないだろう。少なくとも、俺の部下達は皆反対してくれるし、知恵方も反対らしい。
「お帰りなさいませ、御館様!」
館に戻ると、庭に出ていた部下達が一斉に声を上げてくれる。
「おう。なんだ、荷解き終わったのか?」
「丁度一区切りついたところで。先ほど正宗様もお戻りになられましたぜ」
「今日は一日家にいろって言ったんだがな……部屋か?」
「へい。ご自分の荷物をお持ちになって、自分で整理なさると」
「ん、ご苦労」
部下全員に労いをして、部屋に向かう。
障子を開け放ったまま、目当ての相手はてきぱきと長箱の中身を整理していた。
「兄上の側にいてやれ、といったはずだがな?」
「その兄上が言うのですよ。『私よりも側にいたい相手がいるだろう?』と」
相手は手は止めず、目線もこちらに向けずにいつも通り涼やかに言葉を紡ぐ。
後ろ手で障子を閉めて、隣に座る。
「自分は青い顔をしているのに。私には心配させてくれないのですよ、兄上は」
「それならば側にいればよいではないか」
「父上まで同じことを言うのですよ。むしろ主殿によろしくお伝えしなさい、と」
やっとこちらに目線が向けられる。
「今度家に連れてきなさい、だそうですよ。
父上も兄上も、主殿に会いたいと聞かないんです」
おかしいですよねぇ、と、不思議そうな顔をする。
やれやれ、こちらはこちらで大変だ。
雅には言ってない。一度雅に遠方への遣いをさせた時、父上殿にも兄上殿にも会ったこと。雅を貰い受けたい、と話したこと。
「そうだな、考えておこうか」
「……本気ですか」
「冗談でこんなこと言えると思うか?」
どちらにせよ、主上に許可を頂いた報告をしに行かなくてはならない。というのは、胸の奥に忍ばせて。
「雅」
「はい?」
そっと、口付ける。
顔を紅潮させて硬直するのは相変わらず。
何があろうと、相手が誰であろうと、絶対に渡さない。
思えば、あの日が最後だった。
昨日のことのように覚えているけれど、手を伸ばしても届かないほど遠くなってしまった日々。
あの時の誓いは、魔性となった今も変わらない。
もう、あの涼やかな声を聞くことは叶わない。
もう、あの手に触れることは叶わない。
温もりだけが変わらないお前を抱く。
「正宗……」
そっと、鞘を撫でる。
きしり……
鳴いたのは、鴬張りか。
俺についてきたために、刃になってしまった。
俺についてこなければ、幸せになれただろうに。
きしり……
泣いたのは、鍔だろうか。
柄にゆるく口付ける。あの時のように。
『主殿……』
お前の声が、聞こえた気がした。
きしりきしり。
遠くから騒がしさがやってくる。
「者ども、控えているな」
背後に姿を変えてしまった部下達の気配を感じる。
「正宗、参るぞ」
す、と刃を抜く。
清流のような煌きが、闇に光る。
城主の間を辞する廊下。行き合った家老が、わざとらしく慇懃に言う。
離島に棲む鬼達の討伐を下されたのは一月前。主上の横でにやにやと笑っていたこいつの顔と、今の態度から察するに、今回の討伐は成功するとは思っていなかったのだろう。
「主上のご威光のおかげにて。家老も誉れはかねがね」
こういう回りくどい言い方は好かないが、一応話は合わせなくてはなるまい。
「それほどでは。そういえば、本日は知将殿の姿が見えぬようですが」
「正宗は知恵方の具合が悪いとのことで家に。奏上は私一人で十分ゆえ」
これは本当だ。知恵方はお体が弱く、よく寝込まれる。討伐の命が下る前日に体調を崩されていたので本来正宗は連れて行かないつもりだったのが、『私は将でございます』という正宗の言葉に負けてしまった。それだけに、天津に戻ったその足で真っ直ぐ家に向かわせたのだ。
それからもう一つ、今日は正宗抜きで主上に拝謁したかった。正宗、いや、雅を妻とする許しを頂くために。
「なるほどなるほど。知恵方の病は天津の大事ですからな」
家老の顔には、いつぞやの狸の薄ら笑いが浮かんでいる。
「左様。申し訳ないがまだ荷解きが終わっておりませぬ故、これにて」
さっさと話を切り上げ、礼を一つして足早に抜けようとする。
「心しておけ。お主如きに雅は渡さぬ」
家老の横を通り過ぎる一瞬。普段は聞くことのない冷たいものが耳に届く。
雅の家は元々勇猛で知られる武家であり、長男である知恵方の威光、雅本人の将としての評価もあって、数多ある武家の中でも高い権力を持つ。権力を狙う者にとっては格好の獲物だ。
あの狸家老の考えていることは城の皆が知っている。雅と甥を娶わせ、自分が天津を支配する。なまじ家老という立場であるゆえ、誰も表立って悪くは言えない。けれど、快く思っている者は誰一人いないだろう。少なくとも、俺の部下達は皆反対してくれるし、知恵方も反対らしい。
「お帰りなさいませ、御館様!」
館に戻ると、庭に出ていた部下達が一斉に声を上げてくれる。
「おう。なんだ、荷解き終わったのか?」
「丁度一区切りついたところで。先ほど正宗様もお戻りになられましたぜ」
「今日は一日家にいろって言ったんだがな……部屋か?」
「へい。ご自分の荷物をお持ちになって、自分で整理なさると」
「ん、ご苦労」
部下全員に労いをして、部屋に向かう。
障子を開け放ったまま、目当ての相手はてきぱきと長箱の中身を整理していた。
「兄上の側にいてやれ、といったはずだがな?」
「その兄上が言うのですよ。『私よりも側にいたい相手がいるだろう?』と」
相手は手は止めず、目線もこちらに向けずにいつも通り涼やかに言葉を紡ぐ。
後ろ手で障子を閉めて、隣に座る。
「自分は青い顔をしているのに。私には心配させてくれないのですよ、兄上は」
「それならば側にいればよいではないか」
「父上まで同じことを言うのですよ。むしろ主殿によろしくお伝えしなさい、と」
やっとこちらに目線が向けられる。
「今度家に連れてきなさい、だそうですよ。
父上も兄上も、主殿に会いたいと聞かないんです」
おかしいですよねぇ、と、不思議そうな顔をする。
やれやれ、こちらはこちらで大変だ。
雅には言ってない。一度雅に遠方への遣いをさせた時、父上殿にも兄上殿にも会ったこと。雅を貰い受けたい、と話したこと。
「そうだな、考えておこうか」
「……本気ですか」
「冗談でこんなこと言えると思うか?」
どちらにせよ、主上に許可を頂いた報告をしに行かなくてはならない。というのは、胸の奥に忍ばせて。
「雅」
「はい?」
そっと、口付ける。
顔を紅潮させて硬直するのは相変わらず。
何があろうと、相手が誰であろうと、絶対に渡さない。
思えば、あの日が最後だった。
昨日のことのように覚えているけれど、手を伸ばしても届かないほど遠くなってしまった日々。
あの時の誓いは、魔性となった今も変わらない。
もう、あの涼やかな声を聞くことは叶わない。
もう、あの手に触れることは叶わない。
温もりだけが変わらないお前を抱く。
「正宗……」
そっと、鞘を撫でる。
きしり……
鳴いたのは、鴬張りか。
俺についてきたために、刃になってしまった。
俺についてこなければ、幸せになれただろうに。
きしり……
泣いたのは、鍔だろうか。
柄にゆるく口付ける。あの時のように。
『主殿……』
お前の声が、聞こえた気がした。
きしりきしり。
遠くから騒がしさがやってくる。
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詩柳耶琴
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非公開
自己紹介:
ラグナロクオンラインのアマツ萌え&自キャラによる人形遊びな実験的短編置き場
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