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絵とかなんとか色々置いておく場所です。
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今でも、思い出す
というべきか。
今でも、忘れられない
というべきか。



いつでも脳裏に思い出す。

愛おしい名前。
愛おしい声。
なによりも、君を護りたかった。

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「うぉーい! ちょい待てっつの!」

「なんだよ一体。急いでるの 見て分からないか?」

 聞き慣れたホワイトスミスの野太い怒鳴り声に肩越しの目線だけで応えてやる。
 振り返った拍子に抱えた分厚い本たちが崩れそうだ。

「急いでるの分かってるから呼び止めてんだろが。ほれ、忘れ物だ」

 彼が突きつけてきたのは、青い魔石と精錬加工された装備一式。
 若干無理をして買い揃えたもので、精錬しておいてくれ、と依頼しておいたのを思い出した。

「ああ、すまん。助かる」

「ったく、朝取りに来るからなんて脅すから、必死こいて作ったってのに。おら、行って来い」

 アンダーシャツの上から法衣を羽織らされ、ついでとばかりに思い切りよく背中を小突かれた。

「おう、さんきゅ。ああ、多分またしばらく帰らないから、怜のことよろしくな」

「わかってら! 早く行かないと遅刻するぞ!」

 あきれ果てた声に見送られて、再び走る。
 砂漠特有の乾いた風が頬を撫でる。しかしその風は決して優しいものではない。

「……カプラサービスを使う時間もない、か」

 本を落とさないようにバランスをとりつつ、無理やり法衣の胸元をあさって、魔石を一つ。

「ワープポータル! プロンテラ 大聖堂前!」

 青い石が地面に当たって砕け散ると同時に光の泉が現出する。
 光の中に飛び込めば、そこはもう砂漠ではなく大都会の片隅。
 ルーンミッツガルドの首都・プロンテラにある大聖堂だ。

「おはようございます。また朝の礼拝に時間を取ってしまったのですか?」

「おはようございます、シスター。今日は思わず対話を許されてしまったものでね」

 来客のために大聖堂前で控えるシスターと、いつもの会話。
 苦笑している相手は、随分俺に慣れてくれたようだ。
 分厚い本を執務机に置いて、のんびりと外を見やる。
 何しろ覚えなければならないことだらけで。コレだけの分量でもまだまだ半分にも満たないのだ。
 螢もこれだけの分量の知識を詰め込んでいたのかと思うと、こっそりため息をつく。
 ここは、螢が居た場所。
 アサシンだった頃は、スラム仲間や螢の付き添いでもなければ立ち寄ることさえしなかった場所。
 そんなプロンテラ大聖堂の中の一室に、俺の部屋があるという違和感。
 そして。
 こう思うたびに、もう彼女はいないのだな、と、実感する。
 胸元から青い魔石を一つ取り出してころころと手の中で転がしてみる。
 小さい頃から手の中に球体があると手の内で転がして玩ぶのがクセで、昔は適当に拾った小石を使っていたが、今では専らこの青い魔石が手遊びの相手だ。
 大して器用でもないのによく転がせるものよね、なんて柔らかく笑ってくれた螢の顔が浮かぶ。
 かつては内偵中の変装としての姿だった商人をそのまま本業としてブラックスミスになった。
 ここまではまだしも、聖職者になる、と言ったときは周囲の誰もが驚愕の顔をしたっけな。
 そりゃそうだったろう。螢が死んでから、俺は何もかもを憎んだ。
 螢を守れなかった自分はもちろん、あれほど信心深い螢を救わなかった、神というもの。
 何もかもを憎み、神などはいないのだ、と思っていた。
 そんな俺が、かつて螢が属していたプリーストよりも位階の高いハイプリーストになっているのだからお笑いだ。
 神に祝福を願い、その力を行使する。
 それがこれほどの知識を要する反面、信心は特に関係ない。
 これが、俺がプリーストになってわかったこと。
 信心などなくとも、願えば祝福は誰の元にも降り注ぐ。
 彼女が信じていたものというのは、なんだったのだろうか。

「失礼します、ハイプリーストことや。大司教よりお話があるとのことですが……」

「ああ、ありがとうございます。すぐに参上いたしましょう」

 シスターの言葉に頷いて、魔石を胸元に戻し部屋を出る。
 大司教の部屋は、一般には公開されない聖堂の奥殿だ。俺でもそうそう近づかない。

「失礼します。ハイプリースト ことやです」

「ああ、兄弟。よくいらしてくださった。
 思索中だったようですが、お邪魔してしまいましたか?」

 穏やかな笑みで迎えられる。最後のほうは敢えてスルーだ。

「特に。本日はどんな暗雲が?」

「貴方は聡い方だ。ご存知の通り、最近アルナベルツ方面の動きが大変活発です」

 大司教の顔がわずかに憂いに沈み、口調が真を帯びる。

「我が国と彼の国は、一応の友好条約を締結しました。
 飛行船が彼の国に停泊するようになり、多くの冒険者達が彼の国へ渡っています。
……しかし、彼の国には暗いものが多すぎる。そう見えるのです」

「それは、我が国への干渉などにも?」

「……貴方は元々闇の方。やはり感づいておられたのですね」

 どこか自嘲するような、大司教の声が落ちる。

「既に何名かの冒険者に彼の国の調査をお願いし、報告していただいた事例を審議しました。
 その結果、彼の国の動向は、教会として静観できることではないと判断しました」

どんな祝詞を紡ぐときよりも荘厳に、どんな言葉を紡ぐよりも重々しく、大司教の口が動く。

「ハイプリースト ことや。貴方に、アルナベルツ教国への潜入捜査を依頼します」

「謹んで、お受けいたします」

 アサシンのときとは違う作法で、受諾の礼をする。
 しかし、心情はアサシンとして依頼を受諾するときと同じだ。
 内から込み上げる、静かな興奮。これから起こるであろう事態を想定する、高揚感。
 かつて慣れ親しんだ、懐かしい感覚だ。

「準備は万全にして行ってください。出立のメンバーなどは貴方におまかせします。
 兄弟に神の祝福がありますように」

「……失礼します」

 礼をして、大司教の部屋を辞する。

「……決して、闇には戻らないでください。貴方は、教会にとって大切な方。
 シスター螢も、きっと貴方が闇に戻ることを望んではいません」

 聞こえるか聞こえないかほどの呟きが耳に届いた。
 極力平静を装って、後ろ手で扉を閉める。
 大司教は、不思議な人だ。まるでこちらの心情を見抜いているかのように言葉を落とす。
 ため息が漏れたが、頭を振って思考を切り替える。
 準備しなくてはならないもの、連れを願うメンバー、それから事態の想定。
 どれも抜けなく精査し、手配しなくてはならない。
 長い長い廊下を歩く途中、一瞬、金色の泣きそうな笑顔を見た気がした。

時系列いんでっくすに戻る
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詩柳耶琴
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自己紹介:
ラグナロクオンラインのアマツ萌え&自キャラによる人形遊びな実験的短編置き場

といいつつ、いろいろ詰め込んであります。

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