忍者ブログ
絵とかなんとか色々置いておく場所です。
[ 12 ]  [ 11 ]  [ 9 ]  [ 6 ]  [ 3 ]  [ 2 ] 
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

夢なんて、いつ頃から見なくなっただろう。
世間が〝現実〟と言うものこそが夢なのではないだろうか。

まるで終わりのない踊りのように、
次々に獲物を捜し求めながら、
この身を血に染めて。
生きるも死ぬも独りでいい。
守るべき者など、必要ない。


〝Dreamer’s Dream〟

拍手[0回]


 ぐつぐつと、鍋の中身がおいしそうな匂いをさせて煮立っている。
 小皿にとって味見をする。今日も上出来だ。

「たっだいまぁー! おなかすいたー」

 まさにグッドタイミング。狩りから妹が帰ってきた。

「お帰り、怜。ちょうどご飯できたとこだよ」

「やった~。今日もつっかれた~」

 背後のぽふっという小さな音から察するに、ソファーにダイブしたのだろう。
 カチャカチャ、と、装備を外す音も聞こえる。

「怜、家の中とはいえ少しは気をつけろよ。多分スカートの中 丸見え」

「ぇ!?」

 存在が跳ねる気配。つくづく素直なヤツだ。

「今日はビーフシチュー? 作るの大変だったんじゃない?」

 ソファーから飛び上がったついでに背後に移動してきたらしい。
 横から顔を覗かせて、心配そうな声音とは裏腹に満面の笑顔を浮かべる怜。

「大したことない。それより怜、食器出して」

「はーい」

 とてとてとキッチンから出て、食器棚から二人分の皿とスプーンを用意する後姿。
 肩口で適当に切り揃えた、染めたばかりの漆黒の髪が楽しそうに揺れている。

「用意できたよ~」

 二枚の深皿を持って俺の隣に立つ笑顔の怜。最近〝姉〟に似てきた、その笑顔。
 笑顔で応えて、皿にビーフシチューをよそってやる。
 満面の笑顔は、もう存在しない〝彼女〟がいつも浮かべていたのと同じ笑顔。
 さっさと机に戻って、「いただきまーす」といって、パクパクと食べ始める。

「おい、怜~。先に食う奴があるか~」

「だって疲れるし、お腹空くんだもん」

 相変わらず食べる手は止まらず、スプーンをくわえながら答える。
 怜は騎士でありながら己の素早さを武器に戦う、いわゆる速度特化騎士だ。
 その素早さを更に引き出す為に膨大な精神力と引き換えにある奥義を使う。
 かなりの集中力を要求される為、どんな達人でも効果は一回で最大五分。
 しかしその5分間、剣の速度は神速と呼ばれる域にまで達する。まさに奥義だ。
 ため息混じりに席に着き、俺もゆっくりと食事をする。
 後から食べ始めたはずなのに俺のほうが怜よりも早く食べ終わる。
 そういえば〝彼女〟にも指摘されたな、と心の中だけで苦笑して、食器を片づける。

「さて。俺は出かけてくる。洗い物よろしくな」

「えー」

「すぐ戻る。鍵はしっかり閉めておくんだぞ」

「はぁ~い」

 怜の気のない返事を聞きながら、俺はローブを取って扉を出た。




「……久しいな」

「ああ」

 モロクの片隅にある、いわゆる場末のバー。
 そこかしこのテーブルで公然と取引される違法のクスリ。
 ステージで踊っていた踊り子が男たちと奥の方へ消えていく。
 ここではなにもかもが売り物になる。そんな場所。

「最近はどうだ」

「やっと少し慣れた、かな」

「そうか」

 会話が続かない。当たり前といえば当たり前だが。

「湖斗夜」

 沈黙。

「戻ってくる気はないのか」

 ひたすらに続く沈黙。

「なぁ、湖斗夜。〝黒の疾風(かぜ)〟とまで謳われたギルド最速を誇った暗殺者」

 言葉だけが、重く響く。

「……俺はもう、疾風(かぜ)じゃない」

 ぽつりとつぶやく。やっぱり、言葉が重い。

「知っているだろう? 俺がアサシンギルドを抜けるために払ったモノを」

「知っている」

「当時の装備で全身を固めても、俺にはもう力も速さもない。今の俺は、一介の商人だよ」

「それも分かっている」

「……分かっているなら、なぜそんなことを」

「螢を殺した犯人がわかった」

 言葉が、一段と重く感じた。

「なん……だと」

「螢はギルドが殺したのではない。半年前にも言ったがな」

 目の前が、くらくらと回っている。

「彼女は殺された。彼女は、最後までお前を想うことを望み、自殺した」

「どういう、ことだ」

 ずっと、頭がくらくらしていた。

 声の言うには、彼女はあの日 女性ばかり三人での臨時公平中に何者かに攫われた。
 鋼のごとく身体を鍛えこんだ、槍を得意とする騎士。熟練の鷹師と呼ばれるハンター。
 そして、〝金色(こんじき)の聖女〟と呼ばれていた、支援特化プリーストの彼女。
 騎士団で休憩をとっているときに、抵抗する間もなくだったそうだ。
 手を下したのは、悪名で有名なローグ集団のトップで、名はツヴァイク。
 どうやら、俺と婚約する前からあいつは螢にアプローチをかけていたらしい。
 騎士とハンターとはすぐに別にされ、螢は一人 そいつの前に引き出された。
 そして、二択を迫られた。
 螢がツヴァイクに服従の誓いを立てるか、それを拒否するか。
 服従を選ぶならひどいことはしない。ただし断れば、どうなるかは保証しない。
 反吐が出そうな、どう見ても螢にはいいことなどひとつもない話だ。
 彼女はまず、騎士とハンターを完璧に解放するのを見届けたなら、と提案した。
 ツヴァイクは部下に嬲らせていた二人を解放し、それを螢も見届けた。
 はやるツヴァイクに、彼女は笑ったそうだ。
 そして、身体を躍らせてツヴァイクの腰からナイフを抜き取り、自らの喉を一突き。

「……そうして彼女は死んだ」

「なぜ、わかった」

「たまたま依頼がきたローグがやつの手下でな。勝手に喋った」

 どこまでも簡潔な声。

「多分、俺の姿がお前に見えたんだろうよ」

 初めて声が笑う。グラスの中の氷が澄んだ音をたててゆっくり溶けていく。

「昔はよく双子扱いされたな」

「ああ。もうそんな扱いをするやつはいないがな」

 声が苦笑する。

「しかしお前は髪が伸びたな」

「ああ。切る必要がなくなったからな」

 問いが最初に戻る。いつもならこんなことをする相手ではないのだが。

「俺も、彼女に恋焦がれていた一人だ」

 突然の告白。声は「わかっている」というように言葉を続ける。

「ツヴァイクにはギルド経由で依頼が来ている。できるなら殺ってやりたい」

 酒の勢いだろうか。声に熱がこもっているのがわかる。

「でも。彼女はきっとそれを望まない」

 ことり。グラスがカウンターにそっとおろされる。

「彼女は血を流れるのを望まない。たとえ、自らの仇でもな」

 声が硬い。

「そうだな……」

 彼女は倒したモンスターにさえ冥福の祈りを捧げるような、生粋の聖職者だった。
 仇討ちでも、血が流れるのを良しとはしないだろう。

「でも、殺らないわけにはいかない、よな」

 自分の声が冷えているのがわかる。

「ああ」

 相手の声も、氷よりも冷たい。

 グラスの中の氷が、ゆっくりと溶けていく。

「湖斗夜。戻ってこないか」

 声が、俺を呼ぶ。



 頭がふらふらしたまま家に帰り着く。
 酒は弱いほうではなかったのだが、悪酔いしてしまったようだ。
 もう寝ているであろう妹を起こさぬよう、そっと家に入り、流しで水を飲む。
 部屋の衣装箱をみれば、装束と武器がきちんと揃って箱に収まっている。
 トリプルブラッディ、トリプルクリティカルの銘をもつ二本のジュル。
 ゲフェンダンジョンに棲むウィスパーのカードを挿した重力からの解放を促すマフラー。
 ヘルメスという異国の神の名を冠した、風を渡るように歩けるようになるブーツ。
 いずれも過剰精錬がかかった、市場ではかなりの高級品として扱われるものだ。
 その傍らでオマケのように転がるものたち。
 身につけたものの身体を軽くする、スフィンクスダンジョンに棲息するマーターの首輪。
 必中打を多く出せるようになる効果を持ったコボルトのカードを挿したクリップ。
 そして、かつては愛しい人の名が刻まれていた、古ぼけた金色の指輪。
 本当は手放すつもりだったが、なんとなく今まで引き伸ばしてきた。
 久しぶりに指輪を、左の指にはめる。
 もう埃を被って判読は難しくなったが、指輪の金よりも美しい金色(こんじき)をまとっていた女性(ひと)。
 そのぬくもりが、一瞬よみがえるような錯覚。

「戻ってこないか、か……」

 声が、俺の耳にまとわりつく。


To be continue

時系列いんでっくすに戻る
PR
コメント(0)
コメントを投稿
名前:
メールアドレス:
URL:
タイトル:
コメント:
パスワード:  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
ほねほねくろっく
ブログ内検索
プロフィール
HN:
詩柳耶琴
性別:
非公開
自己紹介:
ラグナロクオンラインのアマツ萌え&自キャラによる人形遊びな実験的短編置き場

といいつつ、いろいろ詰め込んであります。

このページ内における「ラグナロクオンライン」から転載された全てのコンテンツの著作権につきましては、運営元であるガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社と開発元である株式会社Gravity並びに原作者であるリー・ミョンジン氏に帰属します。
© Gravity Co., Ltd. & LeeMyoungJin(studio DTDS) All rights reserved.
© GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.
なお、当ページに掲載しているコンテンツの再利用(再転載・配布など)は、禁止しています。
バーコード
忍者ブログ [PR]


Copyright(c) 覚書帳 All Rights Reserved.
Template By Kentaro